自律神経を整えることができれば、原因不明の不調や慢性的な痛みから解放され、病気になりにくい体をつくることも可能です。しかし自律神経という名称からもわかるように直接コントロールすることはできません。そのような自律神経をどうすれば整えられるのでしょうか?そもそも自律神経が乱れているという表現も実は正しくありません。乱れているのは自律神経ではなく、身体のバランスです。身体のバランスが乱れている時には、自律神経のなかでも、特に「交感神経」が必要以上に働き、身体を必死で守ってくれているのです。しかし、その状態を現在の医療や健康知識の中では、「自律神経が乱れている」と表現されているのです。
自律神経は乱れているわけではありません。私たちの身体を維持するために働きすぎているだけです。自律神経に働かせすぎないような環境、つまりバランスの整った身体を作ることが、「自律神経を整える」ということだったのです。
身体のバランスを整え、痛みから解放されて、病気になりにくい体を作っていただきたいのです。
1.自律神経が体を守っている
1-1.自律神経を整えることで病気を未然に防ぐ
ここ数年間で、自律神経の働きが注目され、これを利用して健康になろうと盛んにいわれるようになってきました。
まだまだ医療の世界ではアプローチしていませんが、これから未来の医療や人々の健康を考える上で、自律神経の働きを解明し、直接コントロールすることは、間違いなく必要になってくるでしょう。
自律神経を間接的に整える、つまり身体のバランスを整え病気を未然に防ぐ。誰しもがその整え方を身に付ければ医療崩壊も医療費増加問題もすべて解決できるのです。
健康を手に入れ、社会も健全化する。その鍵を開くのが自律神経のコントロールなのです。
1-2.そもそも自律神経はコントロールできるものなのでしょうか?
実は自律神経は、どういった状態が理想的なのか、現状でははっきりとしていません。自律神経の状態はめまぐるしく変わり、人それぞれ、時々の状況に合わせて揺れ動いていると考えられるのです。
私たちの体は、無意識のうちに変化し続けています。その変化をもたらすのが自律神経です。
つまり、自律神経が無意識のうちに働いた結果が、いまの私たちの体の状態なのです。
しかし、その自律神経を整えようと言われて、できる人はいません。
ところが、「体の筋力をチェックして、その状態を知る」、「体のバランスを意識して整える」という視点から体に対してアプローチすることで、自律神経を間接的にコントロールすることが可能になるのです。
痛みから解放されるために、そして病気にならない体作りのために、まずは自律神経を間接的にコントロールする方法をぜひ知っていただきたいのです。
2.自律神経は体の司令塔
2-1.体の各器官は、自律神経の指令にしたがう
自律神経は、人間が生きていくためになくてはならない重要な器官です。
自律神経が働いた時の簡単な例を挙げてみましょう。
“ 例 ”
- 気温が高い時は、汗を出して体温の上昇を防ぐ。
- 運動をする時には、筋肉が大量の酸素を消費するので、血流をうながして酸素を筋肉へ運ぶために、脈拍を速くする。
これらは身体を健康な状態に保つために、自律神経が指令を出し、身体の各器官が働いたために起きたものです。
いわば自律神経は、身体を健康な状態に保つための司令塔なのです。
身体の変化や異常にすぐさま反応して指令を出し働き続けているのです。
2-2.無意識に働く自律神経
自律神経を理解するために、まず神経とは何かからご説明しましょう。
神経とは、全身に張り巡らされた、情報の通り道のことです。
脳へとつながっていて、大まかにいえば「中枢神経」と「末梢神経」のふたつに分かれています。
中枢神経は、「脳」そのものと、そこから腰まで伸びる神経の束、「脊髄」の総称です。非常に傷つきやすく、脳は頭蓋骨に、脊髄は背骨といった硬い骨によって守られているのです。
一方、末梢神経は、体の隅々まで張り巡らされている神経の総称です。
末梢神経は2種類あり、1つは知覚や運動を支配するもので、体性神経と呼ばれます。腕を振る、走る、歩くといった自分の意志で体を動かす時に働きます。
そして、体性神経とは別の、もう1つの末梢神経が自律神経です。
自律神経が、体性神経と大きく異なるところがあります。それは無意識のうちに働くということです。
寝ている時に、呼吸できる、心臓が働き続けるなど、私たちが気づかない間に、内臓器官や血管といった各部分をコントロールしてくれているのです。
3.交感神経と副交感神経
3-1. 「闘う交感神経」と「癒やしの副交感神経」
自律神経は、交感神経と副交感神経という2つの神経に分かれています。
この2つの神経の性質をひと言で表すなら「闘う交感神経」と「癒やしの副交感神経」です。
仕事や運動など、体を活動的に動かす必要がある時に優位に働くのが交感神経です。
一方、くつろいでいる時や眠る時など、心身をリラックスさせて体を休ませようとする時に優位に働くのが副交感神経なのです。
2つの神経の働きは相反しており、役割も異なります。
2つの神経が体の健康を保つために、それぞれに体の機能を活発にしたり、抑制したりしているのです。
3-2.運動する時働く交感神経の機能
交感神経が優位の状態では、血管が収縮して血圧が上がったり、心拍数が増えたりします。血管が収縮することで、脳、筋肉といった場所へ必要な血(血液中の酸素)を送り込むのです。ホースの先を絞って水圧を高くするのと同じことです。また、気管支が広がり、呼吸の数も増えます。
3-3.体をリラックスさせる副交感神経
副交感神経が優位になるとアセチルコリンという物質が分泌されます。心拍数を下げ、血管を拡張させて血液量を多くし、体をリラックスさせてくれます。
闘った後の体を副交感神経が癒やしてくれているわけです。
多くの臓器は交感神経で動きますが、消化器官だけは副交感神経の働きによります。
職場で昼食を済ませた後、眠くて眠くて仕方がないという経験はありませんか。
それは食べ物を消化するために、副交感神経が優位に働き、その結果、体がリラックスモードになり、ついつい眠くなってしまったのです。
また、涙を流すのも副交神経の働きです。
このように、自律神経は、2つの神経を使って体を健康に保っています。
この健康を司る大切な器官がきちんと役割を果たすことが、病気にならないために重要なことなのです。
4.交感神経の働きで健康になる
4-1.副交感神経の働きで健康になれるのか
「副交感神経の働きを高めて免疫力アップ」。「副交感神経をコントロールして健康になろう」。
副交感神経を主役にしたこのような言葉が、テレビや雑誌、本などで数多く見受けられます。
確かにこれらの書物のいう通り、副交感神経が優位な状態は、健康を保つ上で大切なことです。
副交感神経が優位な状態では免疫力が高まりますし、疲れもとれやすくなります。また、血流がよくなりますから、高血圧や糖尿病といった生活習慣病、冷え症にもなりにくくなります。
ですが、身体の変化や異常に対して指令を出し働き続けるのは交感神経です。冷静に考えても、身体の異常をそのままにして副交感神経優位のリラックスを求めることは、交感神経の仕事を妨げているようなものです。これでは健康にはなれません。
言うならば、家に持ち帰った明日までの課題がまだたくさん残っているのに「早く寝なさい。」と言って寝かしてしまうのと同じことです。でも結局課題のことが気になってぐっすり眠られない。するべきことを終えた後なら、何も気にせず自然と眠りにつけます。
つまり交感神経の仕事を妨げるのではなく、仕事をしすぎることのない環境(身体)を作ればいいのです。
4-2.副交感神経が注目される理由
それでもなぜ副交感神経が注目されるのか、その答えは、現代のストレス社会にあります。
仕事での悩みや人間関係など、日常で感じるストレスは、身体のバランスを乱し、交感神経の仕事を増やします。
ストレスを感じたことがない、という人であれば別ですが、常に交感神経が優位になりやすい状態で私たちは暮らしています。イライラして眠れない、肩がこる、体に疲れがたまっているなど、交感神経優位の状態が続くと、このような症状が引き起こされやすくなるのです。
だからこそ、「意識的に副交感神経を優位な状態にしましょう」と言われているのです。
しかし、正しくは「交感神経が働きすぎない状態にしましょう」ということです。
この違い、わかりますか?
5.交感神経が持つ重要な役割
5-1.副交感神経の働きを呼び寄せる交感神経
そもそも人間の体の中で、どちらか一方だけを整えればいいということはありません。
人間は、地球上に生まれてから現在まで、変わりゆく環境に対応できるように、必要な機能を進化させ、不要な部分を退化させてきました。
つまり、人間のどの機能も人間が生き抜くため、健康を維持するために必要だからそなわっているのです。
そして、交感神経が持つ重要な役割、それは、副交感神経の働きを呼び寄せるスイッチなることなのです。
5-2.交感神経をコントロールすることで自律神経のバランスは整えられる
交感神経をうまく働かせれば、その後、反射的に副交感神経優位な状態が訪れます。つまり、交感神経にドーンと仕事をさせて、その仕事をやり終えると、自然に副交感神経優位な状態になるのです。
鍼治療やマッサージもこれと同じ理屈です。体を刺激することで交感神経を瞬間的に高め、適度な副交感神経優位の状態を導いているのです。
極論を言うと、副交感神経のことなどいちいち考えなくても、いかに上手く交感神経を働かせるかを考えれば、体は自然な状態になり、その時々に必要なバランスで自律神経は働いてくれるのです。
副交感神経を高めて健康になるのではなく、
体を動かしたり刺激したりするだけで交感神経をコントロールする方が、よっぽど簡単に健康になれるのです。
6.健康のポイントは一瞬の交感神経の高まり
6-1.一瞬だけ交感神経を高めることで副交感神経の働きを呼び寄せる
副交感神経を呼び寄せる交感神経の働きで、1つポイントがあります。
それは5-2で述べたように一瞬だけ交感神経を高める、ということです。
一瞬というのがポイントです。
鍼はよい例で、一瞬の痛みを体に与える(刺激する)ことで、交感神経を瞬間的に高めています。
その一瞬の痛みによって、副交感神経の働きを呼び寄せているのです。
6-2.瞬間的に交感神経を高める一流のアスリート達
鍼のように、瞬間的に交感神経を高めている例は他にもあります。
一流のアスリート達がそうです。選手が競技を始める前に、自分の体をぱちぱちと叩いたり、大声をあげたりしていることがあります。これらは、一瞬、交感神経を高める動作です。
競技の前というのは体を活発に動かそうとしていますし、緊張状態にあるため、交感神経の働きが活発になります。
適度に交感神経が活発に働いている状態というのは、興奮状態で、集中力も増しています。しかし、あまりにも交感神経が活発に働いている状況が続くと筋肉が硬直し、パフォーマンスが落ちてしまいます。
緊張すると体がガチガチになって動かないことがありますが、これがその状態です。
それではいいパフォーマンスができないことを知っている一流のアスリートは、体を叩いたり、大声をあげたりすることによって、意図的に一瞬、交感神経を高めています。
それによって体をリラックスさせる副交感神経の働きを呼び寄せ、自律神経をちょうどいいバランスへ導いているのです。
6-3.感動によっても高めることができる交感神経
この交感神経の一瞬の高まりの効果を実感した出来事がありました。
アスリートではありませんが、歯の治療と噛み合わせの相談に来た方で、出産後、腰痛に悩まされていたようです。
歯の治療と並行して、体のバランスを調整することで、もちろん噛み合わせはよくなったのですが、長年悩まされていた腰痛もよくなったのです。
その間、何度か調整を繰り返し、自分でもできることを指導して、家でやってもらったのですが、一番効果があったのは「感動」だったそうです。
私の指導の中に、足首を回したり、頭をマッサージしたり、という動きとは別に、意識で体のバランスを整える、というものがあります。その一番手っ取り早く、痛みもなく、面倒くさくないのが、「感動すること」なのです。
この患者さんの場合は、息子さんがアイスホッケーをしていたのですが、我が子のゴールシーンを思い出すだけで胸が少し熱くなり、ジーンとした感覚を得られるそうです。
そのシーンを思い出すだけで、噛み合わせがよくなり、腰の痛みもなくなるのだそうです。
そして、そんなことを繰り返していくうちに、ほぼ腰の痛みは解消されました。
まとめ
無意識でやっている人は別として、意識でのバランス調整ももちろん可能です。まず、心と体がつながっていることを認識し、意識で体が変化すること、これらを意識することが必要です。
『意識の変化による神経回路(ニューロ)の変化は、その一瞬で筋肉をはじめとするすべての身体の組織を変化させている」ということが意識(アウェアネス)できれば、その変化を最小限に抑えることができる。』というのがニューロ・アウェアネスの理論。
きちんと理解せず「そんなことできるわけ……」と思った瞬間、その素敵な力をキャンセルしてしまうのです。
交感神経の一瞬の高まりで副交感神経を動かす。
そうやってコントロールできないと思い込んでいた自律神経をコントロールすることで、痛みから解放され、病気になりにくい体になっていく。
まさに、自律神経が体を守ってくれるのです。