スポーツ選手を支える人は、何もコーチや監督だけではありません。
実は、スポーツドクターも彼らが最高のパフォーマンスを行う上では重要な存在となっているのです。
とはいえ、このスポーツドクター。
あまり耳慣れない言葉です。
いったい、どのようなことを行っているのでしょうか。
1.スポーツドクターとは?
スポーツドクターとは、簡単に言ってしまえばスポーツ選手の体を管理するドクターのことです。本来、ドクターがスポーツ選手と関わる機会は、骨折や捻挫などのような怪我をしたときが多いのですが、スポーツドクターは怪我や病気の治療をメインに仕事をしているわけではありません。
もちろん、選手が怪我をすればスポーツドクターがそれを治療することにもなるのですが、あくまでスポーツドクターが行うのは管理です。選手が怪我をしたときに仕事を行うのではなく、選手が怪我をしないようにするのがスポーツドクターの仕事なのです。事件が起きてから捜査を行う警察ではなく、事件を未然に防ぐボディーガードのような存在だと言えます。
1-1.怪我予防のための判断を行う
スポーツドクターとは、基本的には怪我を予防するための仕事だと言うことができます。スポーツ選手にとって怪我は、何よりも優先して排除しなければならない危険です。そのため、オリンピックに出場するような優秀な選手や、毎日のように試合があるサッカー選手や野球選手は、専門家であるスポーツドクターの意見を聞きながら、練習や試合を行っていくことになります。
選手は選手自身のことをそれほど把握しているわけではありません。気持ちが急くあまり、体のことを考えずに怪我をしてしまうこともあります。そしてその結果、数年という時間を棒に振ってしまったり、引退しなければならざるを得なくなってしまうこともあるのです。そのため、スポーツドクターとはある意味、選手の人生を守る仕事だとも言えます。
怪我予防のためにスポーツドクターは、選手の状態を細かく把握し、どこまで活動を続けることができるかを判断します。例えば野球選手。肩にハリがある状態を適切に診断し、これ以上投げることができるのか、できないのか、ということを判断し、活動できるボーダーラインを示すのです。
また、スポーツ選手とはいっても、個人や状況によって活動できるボーダーラインは変わってきます。そのため、今日は80球、五日後には50球というように、選手が怪我をしない安全範囲を導き出し、怪我防止に役立てるのです。
スポーツドクターとは、見極めと判断力が重要となる仕事です。万が一にでも見誤ってしまえば、選手の人生を左右してしまう仕事ですので、責任重大な仕事と言い換えることもできるでしょう。しかしだからこそ、選手が活躍すれば一緒に喜ぶことができ、やりがいのある仕事として認識されているのです。
1-2.成績向上のために管理を行う
スポーツドクターとは怪我予防のためだけに存在するわけではありません。スポーツ選手がより良い結果を残せるように、スポーツトレーナーのような役割を行うこともあります。
スポーツトレーナーというと、ジムなどで付き添いながら筋トレを行うというイメージですが、そのようなことを行うわけではありません。スポーツドクターは、選手が怪我を予防するために、もしくはより強くなるために、どこの筋肉をどのようにして鍛えるべきかを指示をするのです。
こうすることで選手は効率良く、そして正しく体を作ることができるようになり、それは結果にも反映されます。一概に治療や怪我の予防だけを行うだけではないというところが、スポーツドクターの特殊なところなのです。
1-2-1.食事管理をして身体機能向上を目指す
スポーツ選手にとって大事なものといえば食事です。食事管理をしっかりとできているか、そうでないかによって、選手の肉体は大きく変化しますし、疲れの取れ方も変わってきます。そのため、食事管理はスポーツ選手にとっての基盤でもあるのです。
スポーツドクターとは基本的に選手の体作りに関してバックアップをするような役目があるのですが、この分野に関しては栄養管理士の仕事でもあります。所属チームによっては、スポーツドクターとは別に、栄養管理士がいるところも多いです。
とはいえ、どのような栄養素を摂取するべきか、ということに関してはスポーツドクターの目からも確認を行わなければなりません。担当分野の線引きが曖昧なため、担当する選手によってはここまでやらなくて良いこともありますが、スポーツドクターとしてはこのようなことまで把握しておき、いつでも力になれるようにしておかなければなりません。
1-2-2.運動学を駆使して成績向上を目指す
スポーツドクターは運動学の知識も持っておかなければなりません。その選手が良い結果を残すために、どの筋肉を鍛えるべきなのか、はたまたどのような力の使い方をすれば、最大限の力を発揮できるのか、ということをしっかりと分析し、伝えなければならないのです。
スポーツ選手は何もがむしゃらに筋肉を鍛えているわけではありません。ある部位の筋肉を鍛えるのは、何をできるようになりたい、という明確な目標が存在するのです。そして、その方法と目標を提示するのが、スポーツドクターの仕事となります。
1-3.怪我をしたときには治療を行う
これまでは選手の補助のような仕事を紹介してきました。実際にスポーツドクターの仕事はそれらがメインとなるのですが、スポーツドクターとは医者です。そのため、当然怪我をした時の治療も行うことになります。
とはいえ、基本的にスポーツドクターが行う治療は本格的なものではありません。スポーツドクター専門の人は、手術という話になれば専門医に任せることになります。ただ、個人で病院をやっており、それと並行してスポーツドクターも行っているという人の場合は、そのまま本格的な治療を行うこともあります。
1-3-1.応急処置を行い最小限の怪我に抑える
選手が練習や試合を行っている最中、怪我をしてしまった場合、この応急処置をするのもスポーツドクターの仕事となります。一緒について行けない場合は、そのようなことはコーチや監督などが行うことになりますが、一緒にいる場合や呼び出された場合などは、スポーツドクターが応急処置を行うことになるのです。
また、国際試合のような大きな大会では、大会側がスポーツドクターを用意している場合もあります。その際には、様々な選手に対して診断を行い、続行可能、もしくは棄権の判断を下さなければなりません。
1-3-2.リハビリのプログラムを考える
選手がスポーツをできないほどの怪我を負い、手術後、リハビリなどが必要になった場合は、スポーツドクターがそのプログラムや補助を行うこともあります。基本的には、手術をした病院でリハビリを行うものですが、病院では日常生活に支障がなければそれ以上のリハビリプログラムは用意されていません。そのため、スポーツドクターは、「日常生活ができる程度」から「以前と変わらぬ運動ができるまで」のリハビリを行うことになります。
2.スポーツドクターになるためには?
スポーツドクターとは簡単に言っても、医師免許さえ持っていれば誰にでもなれるわけではありません。しっかりと、スポーツドクター専用の資格を取得しなければならないのです。
スポーツドクターになるためには必ず医師免許が必要です。その上で、ある資格を取得しなければならないのですが、スポーツドクターは三つの異なる組織が認定しているため、そのいずれかを取得する、という形になります。
2-1.日本医師会認定スポーツ医
まず一つ目は「日本医師会認定スポーツ医」です。医師なら誰でも受けることができるので、日本医師会認定スポーツ医で資格を取得したスポーツドクターが、人数として一番多くなっています。
2-2.日本体育協会認定スポーツドクター
「日本体育協会認定スポーツドクター」は少しハードルが高い資格です。医師免許取得後4年が経過していること、都道府県か加盟団体からの推薦をもらっていること、日本体育協会の承認を得ていること、という三つの条件をクリアしていなければならないのです。しかしその分、他の資格よりもスポーツドクターのプロとして認められる資格です。この資格を持っていれば、オリンピックなどの大会ドクターを勤めることができるようになります。
2-3.日本整形外科学会認定スポーツ医
「日本整形外科学会認定スポーツ医」は整形外科医のみ、受けることができる資格です。他の医師は受けられないので、注意しましょう。
3.まとめ
スポーツドクターのことについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
スポーツドクターとはスポーツ選手の拠り所とも言える存在です。大きなプレッシャーがかかる仕事ではありますが、やりがいのある仕事といえるでしょう。
選手を心配し、尽くし、時にはたしなめる。選手とスポーツドクターは、家族という関係にも匹敵するような絆を持っています。その手腕が、世界一の選手を作る事もあるので、スポーツドクターは誰よりも自分の仕事を誇りに思えるものなのです。