身体のバランスの異常を知らせる症状はたいてい歯や顎に出る場合が多いです。
逆に言えば、歯や顎の不調をきっかけとして身体のバランスの異常が見つかります。
歯科医師である私が「身体のバランス」という医療にはないカテゴリーに興味を持ったきっかけでもあります。
今回もある患者さんの事例を紹介させていただきます。
「歯を入れたい」という女性の方です。
お友達のご紹介で来院されました。
左下の奥歯がないので噛めないとのことです。
右の奥歯はあるけど、なぜか噛むのが疲れるとの話でした。
何年も前から左下の奥歯の調子が悪く、数年前に奥から2番目の歯を抜歯したそうです。
その後残りの奥歯を固定式のブリッジでつないでなんとか噛んでいたのですが、調子の悪い左の方が、なぜだか歯が揃っている右よりも噛みやすかったのだそうです。
ここまで聞いたらだいたい私はピン!ときます。
ブリッジを入れて1年ぐらいしたら、また痛くて噛めなくなってきた。ブリッジの土台になっている手前の歯がグラグラで抜かないといけないと言われて、渋々抜歯したそうです。
その後入れ歯も入れるがどうも合わない。
そんなことをしているうちに、一番奥の歯茎がパンパンに腫れて高熱も出てたいへんなことになり、結局、一番奥も抜歯。
このころから頭痛や耳鳴りもひどくなり、あちこち病院を転々としていろんな検査をうけたそうです。
結果は、異状なし…。
無くなった奥歯に入れ歯をつくっても、合わない。
こんどは歯医者を転々…。
なんど入れ歯をつくりかえても、合わない。
そして、こちらに来られたのです。
歯がなくなったのも、ひどい耳鳴りも左側。
わかりますか?
左側がず~っと頑張っているんです。
だから負担がかかりすぎた奥歯が早々にダメになっちゃったり、頑張っている方の耳が、耳鳴りを起こし易いのです。歯がなくなってくいしばってもいないのに左側の噛む筋肉群はいつも緊張しています。
原因は右側がサボっているから
だから右側では噛みにくいのです。
ちなみにバランスを見てみたら、足も右側には力が入らない状態でした。
体の調整をさせていただいたところ、その場で右の足、腕に力が入るようになりました。その上で再度噛み合わせをチェックしてもらうと…
「あっ、右がちゃんと噛めるようになりました。力が入ります!」
ここまで一瞬のことです。
ちなみに左側の首の張りや頭痛も解消!頭が軽くなったとのこと。
自分でできる体の調整方法を指導して、「からだのバランスのいい状態が続くようになってから入れ歯をつくりましょう」ってお話をして、その日はおしまい。
調整前のバランスの悪い状態では、世界中のどんな名医が入れ歯をつくったとしても、うまくいきません。
左下の歯を抜かなければいけなくなった理由が、まだ体に残っているのに、そこに歯を入れるということは、身体に逆らっているのです。
しかし、そのような異常は最先端の医療機器でも見つけてはくれません。
噛み合わせが悪いとか、いつになっても入れ歯があわないとかで困っている人。
原因はお口や入れ歯にはないのでは?そんな疑問をもつことも大切です。
寄って寄ってアップで痛みのあるところばかりを診てないで、もっとひいてひいて身体全体を診てください。
見る? いえ、診る、です。